stantonharukaの日記

春香さん中心に書いています。

【春香SS】THREE春香さん

モットーってのは、誰だって必ずあるだろ? 「言い訳をしない」とか、「頑張りすぎない」とか、まあそういうやつだ。

そういう俺は「多ければ多いほどいい」をモットーにして生きている。

 

靴下を買うなら3足入りを選ぶし、ピザを頼むときは、わざわざ店に足を運んで1枚無料にしてもらう。そんな感じだ。だから、これは……

 

春香1「プロデューサーさん!」

春香2「分裂ですよっ、」

春香3「分裂っっ!」

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最高だ。

 

〜〜〜

 

「ははは、応接室のソファが3人がけでよかったな! まあ俺以外事務所に居ないんだから、ゆっくりしてくれよ。みんな午後ティーでよかったか?」

春香1「ゆっくりだなんて、できないですってば! あ、ストレートをください」

春香2「そうですよ。これから私……いや、私達はどうしたらいいんですか? 私はレモンティーにしますね」

春香3「私はホットにするので、このミルクティーはプロデューサーさんにあげます。」

「おお、サンキューな」

3人に分裂した春香はいずれも、野付半島みたいに伸びたアホ毛をなびかせながら、午後の紅茶をごくごくと飲んでいる。少しずつ状況を受け入れて、落ち着いてきたみたいだ。

春香3「それで、どうしてこうなったのか、聞かないんですか?」

「聞かないのかって……そりゃあ気になるけど、俺はそれより嬉しいんだよ。春香がたくさん居るのが」

春香2「嬉しいって言われたって、こっちはどうしようもないんですってば」

「焦るなって。こういうのはな、『戻れ!』って命令すれば直るもんなんだよ」

昔、動画サイトで飽きるほど観たショートアニメを思い出した。

「ほら、春香……戻れ!」

春香3「??……何の話をしてるんですか」

通じなかったか。今回は違う原因なんだな。

「いや、なんでもない。聞きそびれたんだが、どうして分裂したんだ?」

春香2「今日はレッスンの日じゃないですか?それで、事務所に早めにきて、次の舞台の台本でも読もーって思ってたんです」

春香1「そしたら、台本に『主演:天海春香』って書いてあって、びっくりしたんです!」

「すまん、春香に言ってなかったか。演出家さんからの直々のオファーで、主演になったんだ」

今度の芝居では天海春香を主演したい、と言われたときには俺も驚いた。喜ぶ春香の顔を見たくって、音無さんには黙ってもらってたんだったな。

春香3「嬉しくって、事務所で浮かれて大はしゃぎしちゃって、それで気がついたら……」

春香123「「「私たちが3人になっちゃってました!」」」

焦ったときにほっぺたに手を当てながらキョロキョロと目を泳がせる春香達は、どうしたって17歳の女の子には見えなかった。5歳くらいか?

「おお、息ぴったりじゃないか!」

春香123「「「そんなこと言ってる場合じゃないんですってば!」」」

「しかし、主演に抜擢された嬉しさで分裂するなんて、妙な話だな。こういうのは、アイデンティティの悩みとか、水をかけられたとか、そういうのが理由だって相場が決まってるんだ」

春香3「??……何の話をしてるんですか」

「いや、なんでもない。でもまあ、あれだろ?同じ春香でも、それぞれ個性とか強みとかが違うんじゃないか?」

春香1「うーん、お互いしゃべってみたんですけど、結局みんな私なんですよね」

春香2「ボーカルとかダンスとか、ビジュアルとかにも差はなさそうですし」

春香3「ぱっと見も変わらないんです。どうしたらいいんでしょう……」

どうしたらいいんでしょう、か。いま、目の前に選択肢が表示されている気がする。あまり自信はないが、俺はとりあえず脳内の□ボタンを押して、仕事の話をすることにした。

「うーむ、そうか。息がぴったりだから、3人で音楽グループを組むのはどうだ?」

春香3「音楽グループ?」

「ああ。ボーカル、キーボード、DJの3人組なんてどうだ?きっと流行るぞ」

イメージはできている。楽曲はサブスクリプションを優先して、ライブはオンライン配信とフェスを中心にする。俺の趣味も混じっているが、3人の春香を売りにするなら、今の時代にあった戦略だと思う。

春香1「プロデューサーさんの趣味でエイベックスからメジャーデビューさせないでくださいよ……」

まずい、これは……ゲームならノーマルかバッドみたいだな。

「そ、そうか。俺は春香のために真剣に考えてたつもりなんだが……」

春香2「私のために、真剣に?」

「ああ、そうだ。春香のことが大切だからな」

春香3「私が……大切……って、あ!」

ん、何かがおかしい。俺の目が霞んだか?いや、まぎれもなく……。

「待てよ、春香の数が……いち、に、さん……よん」

春香4「……えへへっ、私が増えちゃいました!」

親に向かってなんだそのてへぺろは!とっても可愛いじゃないか。

「春香、てへぺろは可愛くていいんだが、急にどうした」

春香1「あの、私……さっき、プロデューサーさんに大切にしてもらえて嬉しいなーって感じたんです」

春香2「そうしたら、なんだか胸が熱くなって……」

春香3「気がついたら……」

春香4「私が増えちゃったんです!」

「そうか!増えちゃったか!」

どうしても、にやけ笑いが止まらない。THREE春香のプロデュースを楽しみにしていたんだが、そうだ。天海春香は、多ければ多いほどいいんだ。いたずら心と多幸感とがない混ぜになって、俺を支配していた。

春香3「なんで嬉しそうなんですか〜!この後どうやって戻るか、一緒に考えましょうよ」

「いいや、だめだ。春香は増えるべきだ。 The more,  the betterの精神でいこう」

春香1「ええっ……って、きゃ!」

少々強引に、春香たちの手を握った。

「急にすまない。俺は春香に……いや、春香たち約束をしたいんだ」

春香4「約束?」

天海春香を無限に増やしたい……俺は必死に脳を使って、春香が喜ぶことを考えた。真っ先に思い出したのは、バターの香りだった。

「そうだな……まず……この前春香が欲しいって言ってた、お菓子用のエシレバター。あれを10kg買うよ」

春香5「ありがとうございます!」

春香1「プロデューサーさん!」

春香の言葉を少し遮って、俺は早口でまくしたてた。

「それから、春香が撮影で着たプリーツスカート。かなり似合ってたから、衣装さんにお願いして買い取ったんだ。自宅に送るよう手配したから待っていてくれ」

先方が春香の撮影のカットが、SNSであげたら、いつもの3倍いいねが来たって感謝されたんだよな。

春香17「えっ、あれを貰えるんですか?嬉しいです!プロデューサーさん!」

春香1「ちょ、ちょっとプロデューサーさんってば!」

視界にたくさんのたこさんウィンナーが見える気がする。あともうひと押しだ。

「それから、春香がアイドルを辞めない限り、俺は春香のプロデュースを辞めない。最初のファンであり続けるし、隣に居続けるよ」

照れ臭いが、本心だから仕方ない。春香も喜んでくれるだろうか。

春香1「......あの、プロデューサーさん?」

春香43「嬉しいのは山々なんですけど」

春香1989「こんなに増やして、どうしたいんですか?」

気づけば事務所の中に、1989人の春香で出来た海が広がっていた。

「俺は……俺は……」

いい香りのする波に圧倒され、息が苦しくなってくる。どの春香のものかわからないタコさんウィンナーやリボンに押しつぶされて悶えながら、大量の天海春香に圧死させられるのも悪くない。そう思いながら目を閉じた。

 

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2021年4月3日0時公開